『見上げてごらん』10月30日(金)公開

 本作は、是枝裕和監督率いる映像制作集団「分福」の森本晶一、佐藤快磨のダブル監督作品。原案、脚本は、森本晶一である。

 ふたりはメッセージとして次のようにいう。

 『見上げてごらん』は、長年助監督として映画に携わってきた経験と、監督としてようやっと歩み始めた今の自分たちを、マンガの世界に重ね合わせて描いた作品です。

 劇中、主人公の万年漫画家アシスタント、42歳の土屋輝一(森田剛)と15歳の娘ひかり(早瀬憩)の会話がある。

「子どもの頃からズッと何かになりたくてそうなる人なんて一握りだと思うんだよね」。

 「まあ、そうだよね」。

 日常と現実の中で夢を叶える人間とそうならない人間とはどう違うのだろうか。

 真ん中にタイトルが出る。

「吉住先生って落合博満の後輩なんだよ。知ってた?」。

「知らないです」。

 散乱している漫画家の机。

 「吉住先生、野球の才能はなかったらしいけどねえ」。

 「大賞 (コミック部門)」の吉住はるをの賞状に、「笑っていいとも」出演時の名前が書かれたパネル。吉住はるをの漫画単行本が並んだ書棚。

 吉住事務所の仕事場。テレビ番組『情熱の大地』の小池ディレクター、キャメラマン、音声担当の女性が位置取りをしている。巨匠漫画家のアシスタントであるモンタ(前田航基)がお茶を持ってくる。

 やがて、「おはよ~!」と吉住はるを(武田鉄矢)が部屋へ入って来る。70歳。

 着ているTシャツと持ってきたTシャツを「どっちがいい? どっちがいい?」とTVクルーに訊いてきたり、「帽子、どうしよう?」とも訊いてくる。演じる武田鉄矢が軽妙で好演だ。

 別室では42歳の吉住の右腕である土屋輝一(森田剛)が漫画原稿にペン入れをしている。横の席にはモンタ、向かいの席には金髪のスドウナオト(吉田晴登)がいる。

 スドウが「今日、ふられるかもしんないです」と話題を振れば、モンタが食いつく。 

 土屋「一緒に住むといろいろあるよね」。

 スドウ「いや、なんかいろいろ積み重ねなんでしょうけど、彼女、この間、会社員になったんですよ。で、いきなり幼すぎるとか言ってきて――」。

 土屋「1っこ下だっけ」。

モンタ「女は分かってねえなあ。俺たちは永遠の漫画少年だぜ」

 モンタが、今日来るアシスタントが女性だと大声で話し、TVスタッフの女性から「あの~、すみません。音も録ってるもんで」と言われてしまう。

 このあたりがとてもリアリティがある。

「Chapter1 マンガの神様」

 キャメラに映っている吉住はるを。

 小池「いよいよ『八郎MEN』、完結ということですが―」。

 吉住「ぼくたちが子どもの頃はねえ。少年マンガのヒーローたちからどう生きるべきかを学んだような気がする。ヒーローたちには、みんな徳があった。テーマがありましたよね。それを今ぼくは『八郎MEN』の主人公たちに託そうじゃないか」。

 取材が終り、事務所のチャイムが鳴る。

 29歳の中堅マンガ編集者の潮田ユキ(森川葵)が、新アシスタントを連れて入って来る。彼女は、熱量不足の人物のようだ。

 「今日からお世話になる山田さんです」。

 大柄で40歳の新アシスタント(川上友里)は、「山田ぽてとです。よろしくお願いいたします!」と猪突猛進にみんなに自作マンガ「茹でミソ」のQRコード付きのカードを渡してゆく……。

 土屋は「所詮、素人だな」という。

 土屋は自転車で事務所へ通っている。妻で人気声優の莉花(松本まりか)とは別居していて、15歳の高校受験生、ひかり(早瀬憩)と父娘で暮らしている。ひかりの部屋には、同級生のシカノが遊びに来ている。

 土屋が彼に貸したお色気マンガ本『マリアの心臓』を汚したとかで新本を買って持ってきた。

その会話が面白い。

 「あれ、初版だったんだけどなあ」。

 「初版とは?」

 15歳は、マニアの気持ちが分からない。

 『情熱の大地』のインタビューでかつては、土屋の後輩アシスタントで、今は漫画家として独立している中江カンパチ(伊島空)がやって来て、皆に新本『ドラゴン様、降臨』を配る。

 土屋は、妻や後輩、編集者へもやりきれない憤りで爆発することがある。

 後輩にも「土屋さん、あの感じ、たまにあるんです」と言われる。

 17年間の連載の最終原稿を入れたにも関わらず、吉住は書き直す。アシスタントは、たいへんだが、編集者の潮田ユキは「今からじゃ、間に合わない。間に合わない、間に合わない…」と慌て出す。「それをどうにかするのが編集でしょう」と土屋はいう。

「Chapter2 家系☆まんが道」

 今度は、熱量不足の編集者、潮田ユキの目線、葛藤から物語が続く。

「Chapter3 見上げてごらん」

 この章で一定の結末を迎えるが、さらに最終章があり、物語は意外な方向に飛躍する。

 普段の生活でものごとが上手くいかない憤りは、観客誰もが経験する思い。登場人物に感情移入もするし、嫌悪感も感じる。

 森川葵の同僚編集者の上田遥の芝居とものの言い方が面白い。

 軽妙な武田鉄矢、目力のない阿部寛の編集部部長の馬場明もいいアンサンブルだが、『私はあなたを知らない、』(26)での好演も印象に残る早瀬憩が今回もいい。そして川上友里の印象も強く残る。

 私はこの映画好きだな。

戸田 学

10月30日(金)公開。

森田剛 森川葵 川上友里 / 阿部寛 松本まりか 武田鉄矢

早瀬憩 前田航基 吉田晴登 伊島空 上田遥

監督:森本晶一 & 佐藤快磨 原案・脚本:森本晶一 音楽:池永正二

企画:江守徹 製作:巖本博 小佐野保 赤澤芳樹 企画協力:分福 プロデューサー:江守徹 大塚健二

撮影:月永雄太 照明:尾下栄治 録音:豊田真一 美術:西尾共未 装飾:小笠原悠里 編集:小原聡子 助監督:新谷和弥人 制作担当:渡辺美穂

製作:「見上げてごらん」製作委員会 制作プロダクション:ギークピクチュアズ 配給:ギャガ

©2026 「見上げてごらん」製作委員会

10月30日(金)テアトル新宿他全国順次ロードショー

公式HP: https://gaga.ne.jp/miagetegoran