「八つ墓村」 2026年9月18日(金)公開。

 横溝正史原作の探偵金田一耕助シリーズのなかでも名作のひとつである『八つ墓村』の映画化である。

 監督・脚本は、オリジナル企画の『呪怨』(99~06)、Vシネ、劇場版、ハリウッドリメイク作品『THE JUON/呪怨』(04)、『呪怨 パンデミック』(06)の清水崇。

 だから本作は、これまでのミステリー作品としての『八つ墓村』の映画化というよりも、これまでの原作の世界を粉骨奪胎したJホラー作品として見事に世界観を成している。

 これは正直びっくりだ。

 松竹映画は、かつて野村芳太郎監督『八つ墓村』(77)という大作映画があった。1970年代は、『エクソシスト』(73)、『ヘルハウス』(73)等のオカルト映画のブームがあり、この野村芳太郎映画は、原作で描かれた戦後から製作時の現代へと舞台を移し、「祟りじゃあ」というオカルト色も前面に出す作品になった。

 クライマックスの川又昴による鍾乳洞シーンの撮影や金田一耕助に扮した渥美清のメリハリのある話芸での謎解きは、映画史に残る。

 監督の清水崇は、原作よりも先にこの野村作品を見たと言う。そして語っている。

「映画版はミステリーでありながら理屈では割り切れない結末が余韻を残す怖さがあって、金田一耕助の映像化作品の中でもいちばん好きな作品なんです。そこに手をつけたくないという思いがあったし、映画ファンとしてもう一度『八つ墓村』を撮る意味があるだろうかという思いもありました。自分だからこそできることを見いだせない限り『八つ墓村』はやりたくない、というのが正直な気持ちでしたね」。

 本作も結末の余韻がこの監督らしい。

夜。井川鶴子(中島亜梨沙)のアップ。山々の中ほどに城郭のような屋敷の灯りが見える。光る何者かの瞳。風が吹いてくる。薄暗く画面が逆さに写り、鶴子の後ろから何者かが忍び込む。そしてその瞳に屋敷が燃えている景色が映る。鶴子が崖から落ちる――。

 井川辰也(奥智哉)の部屋。携帯のバイブがなる。就職試験不合格の通知。インターフォンがなる。

 調布署安全課の私服刑事がふたり。「井川鶴子さんのことでご確認して頂きたいことがありまして」「母とは小さい時に別れて今は関係ありません」。母親が岡山県の八つ墓村で亡くなったことを知らされる。

 メインタイトルが流れる。

 死体安置室で母親を確認する辰也。階段の踊り場で磯川警部(小藪千豊)に声をかけられる。「井川辰也さん?岡山警察の磯川です。お母さんの足取りについて伺えれば」「分かりません。小さい時に別れたきりですから……あの母が死んだ場所を教えて頂けませんか」

 森をゆく辰也。水音が聞こえる。滝の上から下を見る。山の中に屋敷が見える。

 山道をゆくバス。辰也は走るが追いつかず、バス停へ。帽子にコート姿の男(尾上松也)が運転手に「乗った時には持ってると思ったんですが――」と話している。辰也が「これで足りますよね」と千円札を差し出すと男は引ったくり、「私もこれで」。

 バスの中。「いやあ、助かりました。お金は必ず返します」。辰也が席を前へ移動すると男は付いてきて、また前の席へ移動すると今度は、男は辰也の隣に座る。「辰也さん」となぜだか名前を呼び、「田治見家から依頼を受け、あなたを探していまして、探偵の金田一です。田治見家なんですが、あなたの実家で、田治見要蔵さんの、あなたのお母さんは何といいますか?」「愛人というわけですか」

 バス停で金田一耕助が「ちょっと待ってて…」と店へ入ってゆくとバンが止まる。巫女のような不思議な格好をした女(笹野鈴々音)が辰也に「帰れ! 何しに来たんだか!」という。バンから降りた森美也子(堀田真由)が、「来て! この人はうちのお客さんじゃけ」というと女は逃げてゆく。辰也は美也子の運転するバンに金田一と共に乗り込む。「遠いところからお越しになりありがとうございます。私は田治見家に身を置く、森美也子といいます。さっきの人はフリフリさんと言って、幼い時分に親を亡くしておかしくなったようで」

 村のあちらこちらの看板や案山子に不思議な面がついている。「なんですか? あのお面は?」「あれはこのあたりに昔からある魔除けみたいなものです」。

 なぜか村人たちは畑や家の窓からこちらを見ている気がする。

 田治見家は、城郭のような邸宅だった。美也子は、「私は島根の生まれで田治見家の親戚となって、夫を早く亡くして…」といい、「この田治見家は林業と畜産で財をなして今も産業のほとんどを仕切ってます」という。家には小梅と小竹(高島礼子の二役)という不気味な老婆がいて、寝たきりで辰也の腹違いの兄弟である多治見久弥(要蔵との二役の滝藤憲一)は、辰也に「よう帰って来た」と喜ぶ。辰也の従弟にあたる里村慎太郎(小野塚勇人)、その妹典子(永瀬莉子)、それに叔父にあたる医者久野恒美(川瀬陽太)とも会う。

 美也子に連れられて行った八つ墓明神では、能面の天照大御神を中心に、猿、犬、蛙、鳥、鼠、魚、狐を模した面々が白い衣装で舞い、やがてそれぞれが不思議な動きをして果ててゆく。その八つの面は、八つの墓にかけられているものが由来であった。

 まったく不気味な村で、やがて20年前、村全体が停電の元で起こったある事件のことを金田一耕助と辰也は知ることになる――。

 ほかにも磯川警部の部下の刑事に中村莟玉、田治見庄左衛門に高嶋政伸、それに尼子の総大将役で演技巧者の渋川清彦らも出てくる。

 どこか頼りない尾上松也の金田一耕助も魅力的。堪能の117分だ。

 改めて「能面」の怖さも思い知った。

戸田学

2026年9月18日(金)公開。

原作:横溝正史「八つ墓村 金田一耕助ファイル1」(角川文庫/KADOKAWA 刊)

監督:清水崇 脚本:尾ヶ井慎太郎 清水崇

音楽:アントンジュリオ・フルリオ


製作代表:髙𣘺敏弘 門屋大輔

エグゼクティブプロデューサー:吉田繁暁企画:新垣弘隆

プロデューサー:前川盛哉 西麻美 柳田裕介 石塚慶生

アソシエイトプロデューサー:林宏之 ユニットプロダクションマネージャー:石田基紀

撮影:大内泰 照明:神野宏賢 録音:原川慎平 美術:原田哲男 橋本泰至 装飾:極並浩史

編集:鈴木理 助監督:毛利安孝 ホラー担当:川松尚良 制作担当:伊藤栄

衣裳:及川英里子 ヘアメイク:小出みさ 唐澤知子 特殊造形・特殊デザイン:百武朋

スタントコーディネート:東山龍平

ポスプロスーパーバイザー:朝海清史 VFX スーパーバイザー:山口幸治 音響効果:大塚智子

音楽プロデューサー:茂木英興 宣伝プロデューサー:山崎栞 プロダクション統括:佐藤正晃

製作:「八つ墓村」製作委員会 製作幹事・配給:松竹 ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント

制作プロダクション:ダーウィン 制作協力:松竹撮影所

©️2026「八つ墓村」製作委員会 ©️Yokomizo Seishi/KADOKAWA

公式 HP:https://movies.shochiku.co.jp/yatsuhakamura-movie