
今年度の第79回カンヌ国際映画祭 コンペティション部門正式出品作品になる。
監督・脚本の深田晃司は、映画の舞台となる奈義町の「教育・文化まちづくり監」であった劇作家の平田オリザから、奈義町には美術館があるので、平田の代表作『東京ノート』の映画化を薦められた。そこからインスパイアされた作品が本作で、主人公のふたりである松たか子と石橋静香のツーショットのやりとりは、舞台劇を見るかのような、そして舞台よりは静かなリアリティのあるやりとりが印象に残る。自然なのだ。並びのツーショットから、片方が鏡に映り込んでのツーショットもある。
松たか子も石橋静香もその演技には定評がある。
松たか子の実家は、歌舞伎の「高麗屋」。父親の二代目松本白鸚は、私は便宜上、ラ・マンチャの白鸚とか、ルソン助左衛門の白鸚などと呼んでいるが、なんといっても十八番は歌舞伎の名家「高麗屋」を代表する『勧進帳』の弁慶役だ。叔父は名人「播磨屋」こと二代目中村吉右衛門。兄は十代目松本幸四郎。
石橋静香は、父は石橋凌、母は名優の誉れが高い原田美枝子。
演劇のDNAを十分すぎるほどに引き継いでいるふたりだ。
映画の舞台は、奈義町そのもの。その自然と現実的な問題点も描かれる。映画では架空の街「ナギ」として登場する。








バスのエンジン音が聞こえる。暦が映り、2025年3月13日、木曜日。
ナギの街。バス停があり、その待合室もある建物。ピアノがあり、その調節をしている男がいる。
タイトルロールが始まる。道路をジープに続いてやって来るトラックは武器を運んでいる。
タイトルが出る。白いヘルメットをかぶった自転車の学生が通り過ぎると、タイトルが消える。
松下友梨(石橋静香)が歩いている後ろ姿。キャリーバックを引いている。自転車の学生が通り過ぎて、友梨の顔を見て戻って来る。友梨は携帯電話を見ながら歩いている。自転車の学生も携帯電話を見ながら平行に進む。
「あの……なに?……なに?」と友梨が学生に寄って来る。彼は「これ?」って携帯の画面を見せる。そこには友梨をスケッチした絵が映っていた。
「あ、これ私? なんで持ってるの?」
家の玄関から遠藤寄子(松たか子)が出てくる。
「あれ、なんか早くない?」
「一本早いバスに乗れて。メール入れたんだけど」
「ごめん。充電切れてた」
「あの子が連れて来てくれたの」
「ありがとう、圭太くん。冷蔵庫にお茶があるから」
東圭太(藤原聖)は、玄関でなく横の廊下側から家へ入ってゆく。
「春樹くんの絵で私に気づいて」
寄子は、畑を案内する。そら豆や紫キャベツや普通のキャベツが植わっている。
「圭太くん、いい子でしょう」
「でも平日なのに」
「学校?」
「そーね」
「不登校」
「元気そうなのに」
ドーンという演習音。「あ、これ。訓練。自衛隊があるから。自衛隊んとこの子でね、5年前に引っ越してきた」。
家の庭で寄子と友梨の前には、井口春樹(川口和空)がいる。ふたりは仲良しだ。友梨は春樹のお土産に外国の美術館の図録を渡す。圭太も「見せて」という。
友梨は、寄子の弟の別れた元妻である。東京と台湾で建築家として活動していた。
寄子は、酪農を手伝いながらひとり彫刻を作っている。
自宅で絵画教室も営んでいる。子どもから大人までが生徒だ。春樹も生徒のひとりだ。
友梨は寄子に頼まれて、モデルとして数日滞在する。映画は、そのナギの日々を日記帳(ダイアリー)のように描き、日めくりによって出来事が進行する。
友梨は春樹からも「お願いがあるんですが、書きかけのがあって、オレももう一度だけモデルをやってもらっていいですか」と言われる。
日々自衛隊の演習の音が聞こえる。
町では「行政ナギ町です。実弾射撃訓練のお知らせです」との放送がある。
ナギ町は、自然はあるが、風がきつく農作業も難しく、酪農も厳しい。牛が逃げ出したりもする。だから、太陽光パネルの設置や自衛隊基地が誘致され、代わりに立派な美術館もあるという過疎の町の現実が見える。
寄子の幼馴染みの井口好浩(松山ケンイチ)は、春樹の父親で役場に勤めていて、いい声での町のアナウンスは、好浩が担当している。
寄子の家には広いアトリエがあり、多くの作品が飾られている。友梨の別れた元夫で寄子の弟の若かりし日や、好浩の亡くなった妻・井口早苗(藤間爽子)をモデルにした作品も飾られている。
アトリエで彫刻を作る松たか子の手さばきは実に堂に入ったものである。感心する。
やがて、セクシャルマイノリティである寄子の恋の遍歴や悩み、友梨のこれまでの来し方、それに井口好浩の思いなども、日めくりが日々めくられるように静かに描かれてゆく。転校が決まって、春樹と圭太の友情にも大人未満の変化と悩みが訪れる。
松山ケンイチの脱力感ある存在感が『リンダ リンダ リンダ』(05)で演じた槙原裕作の後日感もある。
戸田 学
9月25日(金)公開。

9月25日(金)より新宿ピカデリー、ユーロスペース ほか全国ロードショー
© 2026 ナギダイアリー・パートナーズ (スターサンズ/八朔ラボ/ワンダーストラック) / Survivance / Momo Film Co.
松たか子 石橋静河
川口和空 藤原聖 藤間爽子 水間ロン 申瑞季
松山ケンイチ
監督・脚本 深田晃司
製作:四宮隆史 エグゼクティブ・プロデューサー:大野二郎 Guillaume Morel Jossette Atayde Maria Sophia Atayde Marudo
プロデューサー:大野敦子 長井龍 角田道明 コ・プロデューサー:小山内照太郎 Carine Chichkowsky 陈思恩 佐藤央
撮影:四宮秀俊 照明:加藤大輝 録音:益子宏明 美術:大月由香里 彫刻:吉田愛美
ヘアメイク:菅原美和子 スタイリスト:荒木里江 衣裳:渡部祥子 キャスティング:吉川威史
助監督:鹿川裕史 制作担当:山村亘 編集:Sylvie Lager VFXプロデューサー:平野宏治 カラリスト:Sorawich Khunpinij
音楽:李沛芩 リレコーディングミキサー:Olivier Goinard エンディングテーマ:イーノ・チェン
In association with mk2 Films
助成:Aide aux cinémas du monde – Centre national du cinéma et de l’image animée – Institut français,
文化庁文化芸術振興費補助金(日本映画製作支援事業)独立行政法人日本芸術文化振興会, White Light Studio,mk2 後援:奈義町
製作:スターサンズ 八朔ラボ Survivance Momo Film Co. Nathan Studio ワンダーストラック 制作プロダクション:Lat-Lon
配給:スターサンズ
2026/日本、フランス、シンガポール、フィリピン/ヨーロピアンビスタ/5.1ch/カラー/110分/映倫区分:G
© 2026 ナギダイアリー・パートナーズ (スターサンズ/八朔ラボ/ワンダーストラック) / Survivance / Momo Film Co.
