
『襲名』は、江戸歌舞伎の名跡中の名跡である「十三代目市川團十郎白猿襲名披露」を追った作品。
本作は第83回ヴェネチア国際映画祭 アウト・オブ・コンペティション部門に正式出品。日本映画としては初になる同映画祭の公式独立賞である「Cinema & Arts Award」で最優秀作品賞を受賞。
三池崇史監督は、これまで市川海老蔵時代の市川團十郎と、EXシアター六本木ほかを舞台に「六本木歌舞伎」と命名した作品の舞台演出を経験している。
2015年2月、『地球投五郎宇宙荒事』、市川海老蔵と中村獅童の出演。脚本、宮藤官九郎。
2017年2月、『座頭市』、市川海老蔵と寺島しのぶの出演。脚本、リリー・フランキー。
2019年2月、芥川龍之介原作『羅生門』、市川海老蔵と三宅健の出演。
2022年2月、『ハナゾチル』(『青砥稿花紅彩画』より)は、三池崇史は監修に回り、藤間勘十郎の演出での公演。
“歌舞伎”と名がついた舞台に梨園出身(父親は七代目尾上菊五郎)の寺島しのぶが出演したのも話題だった。その後、寺島しのぶは2023年10月、東京歌舞伎座の本興行で山田洋次作・演出の『文七元結物語』に出演することになり、以後も本興行出演が続く。
暗転。柝が入り、鐘の音、三味線の演奏が聞こえる。
「光と影」
「破天荒な光と影をまとい、王道と異端の二刀流で今を駆け抜ける役者、市川海老蔵改め十三代目市川團十郎白猿。十三人目の團十郎。その誕生の記録です」。
ナレーションは、杏。かつてTBS系『世界遺産』での映像に寄り添う控えめな語りは良かった。
揚幕が開く音。花道を下駄で踏み鳴らして出てゆく。「十三代目!」の大向こう。
立ち止まった團十郎の助六は、番傘で顔を隠している。番傘を開き、すっと立つ。

「荒事と色事の融合。江戸歌舞伎最高峰の美。歌舞伎十八番の内『助六由縁江戸桜』」。
番傘を左肩に助六がゆっくりと回る。
『外郎売』で、扇を右手に花道を歩く團十郎長男の市川新之助。
「現代に蘇った市川宗家の台詞劇芸。言いたての神髄。歌舞伎十八番の内『外郎売』」。
見得を切る外郎売。
『勧進帳』の弁慶。


「市川宗家が重んじる瞬技と不屈の精神力の象徴。歌舞伎十八番の内『勧進帳』。歌舞伎十八番とは、歌舞伎の宗家である市川團十郎家の家の芸として選定された十八の演目を指します」。
「傾奇者と呼ばれた男たち」
ここからは、歌舞伎の歴史を少し――。
「戦国時代の終わり、常識外れな格好をし、奇抜な行動をとる若者たちが現われ、傾奇者と呼ばれた」。
「阿国歌舞伎図屏風」(部分)京都国立博物館。
「それを真似て京の河原で阿国という女性が踊り出した。その妖艶な踊りが大評判となり、かぶき踊りと呼ばれるようになった。伝統芸能の最高峰といわれる歌舞伎」。
襲名披露公演口上での二代目松本白鸚の口上。
「十三代目市川團十郎白猿、八代目市川新之助。ゆくゆくは立派な俳優にとなられますよう、いずれも様のご支援、ご贔屓のほどを隅から隅まで、ずい~と、乞い願い上げ奉りまする」。
二代目白鸚の父・初代白鸚は、新團十郎の祖父である十一代目團十郎の弟だ。
「そして今、十三人目の團十郎が誕生する」
新團十郎の「にらみ」。
「にらみとは、不動明王の荒ぶる魂と悪を退ける鋭い眼光を体現した市川團十郎家だけが披露することを許された究極の見得です。團十郎が不動明王の化身となり、観客をにらむことによって、厄や邪気を払い、無病息災で過ごせるという儀式」。

引幕から市川團十郎家の紋「三枡紋」、そして、村上 隆が描く「2020 十三代目市川團十郎白猿 襲名十八番」祝幕のイラストからタイトルが出る。
2019年1月14日、東京歌舞伎座での襲名披露会見から始まる。
襲名は一年後の2020年5月3日、それまでの團十郎親子を追うが――。
市川海老蔵は、『義経千本桜』をひとりで十三役を演じる『星合世十三團 成田千本桜』に挑む。
父十二代目團十郎が復活した演目『外郎売』を海老蔵同様に新・新之助が挑戦する。
そして七月大歌舞伎公演で体調を崩した海老蔵に代わり、主役で『外郎売』を演じた長男、堀越勸玄の姿が感動的だ。
海老蔵での最後の『勧進帳』を演じる博多座での公演が新型コロナウィルスのために休演になる。歌舞伎座襲名披露公演も無期延期される。
2022年11月の歌舞伎座での襲名披露公演では、『助六由縁江戸桜』、『外郎売』、『勧進帳』の舞台映像を堪能させる。

『外郎売』では新之助の早口口上を、彼にとっては祖父である十二代團十郎と「團菊」コンビであった七代目尾上菊五郎が目を細めて眺めている姿が印象的だ。
ラストの『勧進帳』では、ライブラリーを遣って、新團十郎の十三代と十二代、そして祖父十一代の舞台姿がクロスオーバーする。
この映画は、歌舞伎初心者も、いわゆる通といわれる人たちをも充分に堪能できる作品になっている。











三池崇史監督の團十郎親子に対する「愛」を感じる。
お見事でした!
戸田 学

9月25日(金)公開。
出演:市川團十郎 市川新之助 ほか
監督:三池崇史
祝幕:村上 隆
製作:紀伊宗之
プロデューサー:田中傳次郎 坂美佐子
制作プロダクション:オー・エル・エム PlanD
協力:松竹 日本俳優協会
配給:K2 Pictures
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