私がチャップリンの映画にきちんと接したのは、小学五年生の時だった。『チャップリンの黄金狂時代』(25)と『犬の生活』(18)。彼の代表作をまず初めに観られたのは、幸運であった。

私はチャップリン映画とともにまた熱心な映画ファンになった。
きっかけは、神戸花隈の親戚の家のテレビで、サイレント喜劇の特集を見たことであった。チャップリンだけでなく、キートン、ロイド、ベン・ターピンのドタバタ喜劇に魅了された。最も印象に残ったのは、『チャップリンの独裁者』(40)。主人公の独裁者ヒンケルが、地球儀の巨大バルーンと戯れるバレエが心をとらえた。
それまでも祖父の会社の旅行で金沢へ行ったときに『ライムライト』(52)の看板を見たり、その後、低料金1本立の名画座、天王寺ステーションシネマで『独裁者』がかかっていて、観たくてたまらなかった。
すでに東和が〈ビバ・チャップリン〉と題して、チャップリン映画の連続上映が始まっていた。大阪では1972年11月18日に第1弾の『モダン・タイムス』(36)が、阪急プラザ劇場が公開されている。
1974年8月15日から公開の『チャップリンの黄金狂時代』、同時上映の『犬の生活』は、母に連れられて4歳下の弟と大阪ミナミにあった南街スカラ座で観た。
南街スカラ座は、南街会館の6階にあり、エレベーターを降りた右側。左側には南街文化劇場がある。
南街スカラ座は、ガラスドアを入ると受付が右手にある。受付の奥は売店になっていて、その前は狭いロビーですぐに劇場入口。正面奥はトイレだったかと思う。受付左側には廊下があり、劇場入口というだけだった。劇場内は、ゆるやかなスロープがついた客席だった。
その日は『黄金狂時代』の途中からの入場だった。それも場面は、雪山の山小屋で飢えのためにチャーリーと相棒のビッグ・ジムが、チャップリンの有名なトレードマークにもなっているドタ靴を煮込んで食する場面の、まさに靴を鍋から取りだすという映画史上有名なシーンだった。
そして映画は続き、吹雪の中、山小屋は飛ばされてゆき、気がつくと崖の際に小屋の半分が出ていて、やがて小屋自体がシーソー状態になるのだが、ここで劇場から幼児の「ママ、あぶない!」という叫び声が上がった。場内は爆笑だった。当時、小学一年生だった弟もこの場面は憶えている。
現在のシネコン時代は、全席指定席で上映開始時間の席で観るのが当たり前だが、この時代の映画館は、全席自由席でいつまで滞在しても大丈夫だった。途中入場した場合は、観始めたところまで見て、脳内で一本の映画に完成させたりしたものだ。
映画の最後に〈ビバ・チャップリン〉シリーズの次作第6弾の上映が『チャップリンの殺人狂時代』(47)と出た。
その〈ビバ・チャップリン〉シリーズ第7弾というか、〈ビバ・チャップリン`75〉第1弾が、『キッド』(21)、同時上映『チャップリンのゴルフ狂時代(『のらくら』の改題)』(21)。この作品は、年下の従弟を連れて神戸三宮の阪急シネマで観た。『キッド』は、私の生涯のベスト映画だが、神戸出身の映画評論家の淀川長治さんに、「初めて小学生同士で『キッド』を観たのが神戸の映画館だったんです」と話すと、「あんたもやっぱり錦座で観たんか?」と返事が返って来た。
錦座は神戸新開地にあった劇場で、淀川先生は錦座で『キッド』を始めてみたのだろう。初公開時に。むろん戦前だ。
1978年2月、大阪キタの北野劇場閉館時には、タレント浜村淳さんのトークショーと『モダン・タイムス』の上映が同じ梅田東宝会館の上層階の梅田スカラ座であった。浜村淳さんが〈映画館おくりびと〉をした最初の頃だった。映画館が持っていた映画グッズを進呈してくれた。浜村さんがチャップリンのクイズを出し、「チャップリンがたった一人しか出ない映画のタイトルは?」という問題が出た。手を挙げたのは、私ともう一人の人。答えは『午前一時』(16)、あるいは別タイトルの『チャップリンの大酔』、『チヤプリン酩酊』が正解だったようだが、浜村さんはもう一人の人を当てた。
この時に上映された『モダン・タイムス』の酒場のシーンで、チャップリンが歌う歌詞を忘れ、カフスをカンペにして踊っているうちに左右にポ-ンと飛んでいく場面で、ボンッという爆発音のような笑いが起こった。こんなことは、のちに桂枝雀の独演会でしか経験したことがない。
NHKでチャップリンのキーストン、ミューチアル、セッサネイ社時代の二巻ものの短編作品を「チャップリン小劇場」として連続放送していたのも懐かしい。「ニュースセンター9時」が終わってからの20分間。ナレーションというか、弁士がフランキー堺さんだった。
「フランキー講談」でも知られた話芸も達者な人。チャップリンの相手役エドナ・パーヴィアンス(現在ではエドナ・パーヴァイアンスという)のことを「可愛い、可愛いエドナちゃん」と語ったり、墨まみれになった男を見て、女が「キャ~、真っ黒け~!」と叫んでいたフランキーさんの語りが印象に残る。どこかにその録音はないものかな。
