
余韻が残る映画である。
監督の中島哲也らしい過去現在のカットバックを多用しながら、それぞれの登場人物の表面と内心の葛藤が表出されてゆく。
打海文三によるミステリー小説『時には懺悔を』に出会って18年、その難しいテーマから映像化不可能だとされた作品を、彼独自の映像の世界観でドキュメンタリータッチに仕上げた。
原作者の打海文三は、障害者の息子を育てた経験からこの作品が生まれた。
名画といってよい。脚本は中島哲也とは、『パコと魔法の絵本』(08)、『乾き。』(14)、『来る』(18)でも共同脚本だった門間宣裕。
「懺悔」――自分の犯した罪を告白し、神仏や他人に赦しを乞う行為。
1994年6月
机上の菓子に羽音を響かせハエが集っている。血のついた包丁。男が倒れている。殺風景な米本洋一の探偵事務所。
「死んだ方が、マシな人間が死んだ」。中野聡子(満島ひかり)の語り。
汚れ切った身なりの佐竹三雄(西島秀俊)が水を飲み車で走る。
6月27日
殺された男――米本洋一(佐藤二朗)の葬儀会場。
米本は、派手な宣伝パンフレットを作り、高額な調査料を取り評判の悪い男で、周囲の人間は誰もが彼を嫌っていた。
「寂しい葬式だな」。佐竹に声をかけたのは、佐竹がかつて在籍していた大手探偵会社アーバン・リサーチのオーナー寺西(役所広司)。 会場には探偵の舟尾(片岡鶴太郎)もいる。

「女房だって死んで清々しているだろう」。
中野聡子は受付をしている。彼女は、週3日夜勤のアルバイトをしながら、授業料の高い寺西の探偵スクールで学んでいる。「死んだ方がいい人間の葬式に出るのは始めてだ」と受付を担当している。
寺西は佐竹に「お前だって気になるから、ロッカーとか事務所を探ったんだろ。今のお前に断る度胸もねえよな」と1万円札数枚をポケットにねじ込む。
「うちのスクールの中野聡子を助手に遣ってやってくれ」
現場で震えている聡子。
「しかもあいつ前科持ちでな」
タイトルが出る。
佐竹三雄は、バーで酒におぼれている。
寺西は「ギャラは2万、頼むよ。1日だけの特別授業だ」という。「面白い子でな。お前にも1度見て欲しいんだ」。
佐竹の家は荒んでいて、娘の観月(山崎七海)はぐれている。西島は1万円札を机に置いて家を出る。
7月1日
米本の事件には、舟尾も呼ばれている。
荒んでいる佐竹は、聡子に対してもぞんざいな態度で、聡子はいつも腹を立てている。
聡子は米本洋一の事務所に忍び込んで、そこで死体を発見していた。
事務所にVHSテープに写真のデーターが残っていた。
あとで分かるのだが、明野哲夫(宮藤官九郎)と子どもの新(しんすけ)が映っていた。
「変でしょこの子。なんかバランスが」。
プリントアウトしたものを持って佐竹は、別れた妻、由紀(柴咲コウ)が働いている病院へ行き。写真を見て貰う。「この子だ」「いくつぐらい?」「7つか8つ」「分かりにくいけど、もしかしたら水頭症…」。
聡子は過去、暴力を振るう夫を刺し、娘の親権も奪われていた。
7月11日
聡子は、重度障がい児訪問看護学校の生徒たちの調査をする。
寝る時間もなく、トイレも我慢している聡子は「週3日の夜勤でアーバンの高っかい授業料も払って!」と佐竹に当たる。「嫌ならもう来なくていい」。
聡子が車で見張っていると、同僚の風間謙二(鈴木仁)がビニール袋を手渡し、「あ、これ佐竹さんから。今日はぼくが付き合うので。聞きましたよ。佐竹さんを怒鳴りつけたんでしょ」。佐竹は寺西に聡子の授業料を安くするようにも交渉していた。
やがて、佐竹と聡子は、9年前に起こった新生児誘拐事件にたどり着き、殺された米本が、死の間際に捜査していたのは、9年前に失踪して、今は父親の明野とふたりで暮らしている少年・新についてだった――。
貧相で無精ひげを生やして新に愛情をもって日常を過ごす明野哲夫の宮藤官九郎が素晴らしい。人間の卑屈さも表出する。

その明野を訪ねる主婦・尋津民恵に黒木華。民恵の元夫・志賀功に毎熊克哉、現在の妻に野呂佳代。明野の妻・昌美の鳥森まど。9年前の誘拐事件を所轄で担当していた刑事に塚本晋也。
芝居巧者のアンサンブルもこの映画の見どころのひとつだ。
やがて、佐竹の長男正樹(山下舜太)は脳性麻痺で彼の死が妻との別れにつながり、幼い娘の観月が不良化して行った逸話や、聡子の環境などそれぞれの心境が交差してゆく――。








この映画が奇蹟なのは、重度障がい児の子どもたちが役として出てくることだ。
こういう演出を考え、作品を成していることが凄い。
原作者だけでなく、プロデューサーの前田利洋もまた障がいのある子どもの親である。彼は脚本の初稿を読んで号泣したという。
「障がいのあることが可哀相なのではなく、大変だな、と感じてもらえるように世の中の目線を変えたいと思いました。僕も自分が当事者になるまでは悪気なく哀れみの目を向けていたからこそ、知ることによって協力し合える環境を作るきっかけになりたかったんです」
中島哲也監督はメッセージを寄せている。
「この子は生まれてこないほうが幸せでした」。劇中のセリフですが、そう言われた子どもがそれでも生まれ、多くの人々の心を動かし、その人生に影響を与える。望まれなかった命が誕生し誰かの救いになって、この世界に生れてきた価値があると証明する。そのことと正面から向き合った映画だと思います。
戸田学
8月28日(金)公開。
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